ぼくとかわいい君と【短編集】second (ページ8)

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それから数週間。俺は着々と料理の腕を磨き、作れる品のレパートリーも増えた。包丁の扱いにもだいぶ慣れてきたし、手際も良くなっている。

俺の成長の早さには涼太も驚いているようだ。

｢すごいね、翔太｣

涼太に褒められてドヤ顔をかます俺に涼太は微笑んだ。

｢愛の力は偉大だね｣
｢は？｣

愛…？

変なことを言う幼馴染に説明を求めてもただ笑みを深くするだけで何も答えてはくれなかった。

当初の約束の週に二日はゆうに超えて、俺は涼太の時間が空いてる日には料理を教えてもらうようになった。その分康二の手料理を味わう機会はめちゃくちゃ減った。でも、それがいいのかなって思う。
俺は康二から自立するために料理を習い始めたわけだし、康二に定期的に料理を作ってもらうのは明らかに康二に迷惑をかけているだろうから。俺が独占してしまっていた分、康二には自分のしたいことをして欲しいと思った。

それなのに。

｢あの、康二…？｣

俺は今康二に壁ドンされている。いつもの柔らかい楽しげな雰囲気など一切無く、こちらをじっとりと見てくる康二。その瞳がなんだか澱んでいるように見えて背筋がゾクリとした。

｢最近、舘さんから料理習ってるんやって？｣
｢え、あ、そう、だけど…｣

なんで、それを康二が知ってるんだ…？もしかして涼太に聞いたのだろうか。

｢なんで？｣
｢え？｣
｢俺の料理じゃ不満やったん？俺から離れようとか思っとんの？｣
｢康二から離れようとか思ってる訳じゃなくて…｣

なに？なんでこんな威圧されてるように感じるんだ？怖い…。

なんだか上手く言葉が出てこなくてまるで言い訳するみたいな感じになってしまう。

｢じゃあなに？料理習うのも舘さんやのぉて俺でもいいやろ？俺じゃダメやった理由はなんなん？｣

グッと距離を近づける康二。少しでも動いたら鼻先が当たってしまいそうな距離だ。

｢こ、康二に！｣
｢俺…？｣
｢康二に、サプライズ、したくて…。いっつも振舞ってもらってばっかりだから、俺も康二に何か作ってあげたくて…それで…｣

少し嘘が混じった答え。でも今はこれが最適解な気がする。
康二の次の反応に怯えながら、おそるおそる顔色を伺う。

｢なんや、そうやったんか｣

そう言った康二の顔はさっきと打って変わっていつも通りの晴れやかなものだった。俺はほっと息をつく。

良かった…もう怒ってないみたいだ……。